乱流の渦構造可視化のためのQ値導出について

渦構造を可視化するのにQ値なるものがあるらしい.Q値って何?ってその人に聞いても教えてくれなかったので書き下し.流体をちょこっと触れていても乱流についてはそこまで触れてこなかったので,こういうところで差が出てきますね.知らないと圧力場とか渦度ベクトルの絶対値とかでやりきろうとするもんね.

流れとしては以下のような見つけ方です.

  1. 渦構造を特徴づけるのは各流体要素の速度勾配テンソル
  2. テンソル量を座標に依らないスカラーで取り扱いたい
  3. 速度勾配テンソルを対称テンソルと反対称テンソルに分けて変形速度テンソルと渦度テンソルに分解する
  4. それぞれの大きさを比較するとうまくテンソル不変量が出てくる

 

 

速度勾配テンソル

 

場の速度勾配を記述したテンソルを以下で定義できます,
\begin{align}
D= \begin{pmatrix}
\dfrac {\partial u}{\partial x} & \dfrac {\partial u}{\partial y} & \dfrac {\partial u}{\partial z}\\ 
\dfrac {\partial v}{\partial x} & \dfrac {\partial v}{\partial y} & \dfrac {\partial v}{\partial z}\\ 
\dfrac {\partial w}{\partial x} & \dfrac {\partial w}{\partial y} & \dfrac {\partial w}{\partial z}
\end{pmatrix}\end{align}

ここで (x,y,z)は座標で (u,v,w)はその座標系での速度です.なぜこれを定義するかといえば,各点(厳密に言えば流体要素)の渦構造を特徴づけるのは速度の絶対値ではないのでその勾配をとってみようということではないかと思います.多分34階のテンソルが有用ならそっちにも言っていると思いますが,多分2テンソル量である程度有用なのでしょう.ちなみに速度の絶対値は相似則を考えればわかるように渦構造とはリンクしていないでしょう.最初は渦度じゃダメなの?と思いましたが渦度は単純せん断場でも値を持ちますし,ベクトル量なので扱いづらいし座標系によって変わっちゃうから?(変わるかどうか調べていません)と思います.

 

テンソル不変量

テンソルには座標系に依らないスカラー量が定義できます.そのうち第二不変量というのを今回使うのでそれを I_2とすると Dの成分表示で次のように表せます.
\begin{eqnarray}
  I_2=\begin{vmatrix}
D_{22} & D_{32}\\
D_{23} & D_{33}
\end{vmatrix}+\begin{vmatrix}
D_{11} & D_{21}\\
D_{12} & D_{22}
\end{vmatrix}+\begin{vmatrix}
D_{11} & D_{31} \\
D_{13} & D_{33} 
\end{vmatrix}
\end{eqnarray}

それらの導出は以下に超詳しく書いてあるのでこちらをご覧ください.

テンソル不変量 [物理のかぎしっぽ]

 これらの量に物理的な意味を持たせられたらスカラー値で取り扱えてしかも座標系に依らないものが手に入るよね,ということでしょう.

対称テンソルと反対称テンソル

まずはこの速度勾配テンソルを対称テンソルと反対称テンソルに分解してみます.
\begin{eqnarray}
 D_{ij}=\dfrac {1}{2} \left( D_{ij}+D_{ji} \right) +\dfrac {1}{2} \left( D_{ij}-D_{ji} \right)
\end{eqnarray}
ここで右辺の各項は流体要素の変形成分である変形速度テンソル Sと回転成分である渦度テンソル \Omegaにあたります。
\begin{eqnarray}
  S_{ij}=\dfrac{1}{2}\left( D_{ij}+D_{ji} \right)\\
  \Omega_{ij} = \dfrac{1}{2}\left( D_{ij}-D_{ji} \right)
\end{eqnarray}


というわけで速度勾配テンソルから変形とか渦とか物理的意味のあるものが出てきました。この量とテンソル不変量が結びつけばQ値の物理的意味がわかりやすいですね。

テンソル不変量で表してみる


さて、少し天下り的ですが、各テンソル同士のスカラー積(複内積というそうです)の差, \Omega^2_{i,j} - S^2_{ij}
なる量を計算してみます。これは物理的には速度場の回転成分と変形成分の差のようなものでしょう。

\begin{align}
\Omega ^{2}_{ij}-S^{2}_{ij} &=\left( \Omega _{ij}+S_{ij} \right)  \left( \Omega _{ij}-S_{ij} \right)\\
&=-D_{ij}D_{ji}\\
&=-(D_{11}D_{11}+D_{12}D_{21}+D_{13}D_{31}+D_{21}D_{12}+D_{22}D_{22}+D_{23}D_{32}+D_{31}D_{13}+D_{32}D_{23}+D_{33}D_{33})\\
&=-\left( D_{11}+D_{22}+D_{33} \right) ^{2}+2 \left( D_{11}D_{22}+D_{22}D_{33}+D_{33}D_{11} \right)  
-2 \left( D_{12}D_{21}+D_{13}D_{31}+D_{23}D_{32} \right)\\
&=-2 \left( D_{12}D_{21}+D_{13}D_{31}+D_{23}D_{32}-D_{11}D_{22}-D_{22}D_{33}-D_{33}D_{11} \right)\\
&=2\left( \begin{vmatrix}
D_{22} & D_{32}\\
D_{23} & D_{33}
\end{vmatrix}+\begin{vmatrix}
D_{11} & D_{21}\\
D_{12} & D_{22}
\end{vmatrix}+\begin{vmatrix}
D_{11} & D_{31} \\
D_{13} & D_{33} 
\end{vmatrix} \right) \\
&= 2I_2
\end{align}

とこれは不変量で表せましたね!

あとは係数の問題なのですがQ値としては以下の定義がされるみたいです.
\begin{eqnarray}
  Q=\dfrac{1}{2}I_2=\dfrac{1}{2}\left( \Omega^2 - S^2 \right)
\end{eqnarray}

めでたしめでたし。

 

テンソル不変量 [物理のかぎしっぽ] 

対称テンソルと反対称テンソル [物理のかぎしっぽ]

る渦

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvs1990/22/1Supplement/22_1Supplement_107/_pdf

 テンソル

http://solid4.mech.okayama-u.ac.jp/テンソル.pdf

 

 質問コメントなどありましたらご連絡いただけるとうれしいです.

 

 

しかしテンソルなんてあまり気にしてなかったけどちゃんとやってみるものだなあ...